組織ルーチンの新潮流④:

「ルーチン動態論」が示す変革のヒント

 

 「 組織ルーチンの新潮流」連載最終回となる今回は、組織ルーチンの動態的理解(Routine Dynamics)を取り上げ、組織変革へのヒントを探ります。また、ソシオマテリアリティ(人間と物質の不可分性)やアフォーダンス理論、批判的実在論といった近年注目されている新視点との接続にも触れ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈での実践的な洞察を得ます。最後に、研究面での今後の課題と展望についても考えたいと思います。

 

組織ルーチン動態論のポイント

 
 まず、ルーチン動態論の基本から整理します(詳しくは連載①をご覧ください)。その契機となったFeldman & Pentland (2003)の論文では、組織ルーチンに「オスティンシブ(直示的)な側面」と「パフォーマティブ(遂行的)な側面」があることが明らかにされました。前者はマニュアルや手順書のような行動パターンや規範を指し、後者は、実際に人々が実行する具体的な行動を指します。重要なことは、両者は常に相互作用しているということです。例えば、行動パターンは、現場での実践を通じて少しずつ変化する一方で、行動パターンもまた人々の行動の前提となります。このような相互作用が、組織に安定性と変化をもたらすメカニズムなのです。

 

 この視点に立つと、組織変革は、外部からの指示やラディカルな変革だけではなく、日々の業務の中から内発的かつ漸進的に生じる変化として理解することができます。つまり、現場で働くメンバー自身が、仕事のやり方に創意工夫を加え、それが定着すれば、新たな方として進化し、組織運営全体の方法へと波及しうるのです。組織ルーチンは、組織の進化を支えるDNAだと言われる理由はここから来ています。

 

ソシオマテリアリティ(社会物質性)との関係

 

 ルーチン動態論をさらに深く理解するために、ソシオマテリアリティの視点を考えてみましょう。ソシオマテリアリティとは、「人間の行為(社会的要素)」と「物質的要素(特に技術)」は、互いに切り離せないほど密接に絡み合っている、という考え方です。代表的な論文であるOrlikowski & Scott (2008)では、社会と物質は本質的に不可分であるとも述べられています。

 

 このような人間と物質の不可分性は、組織ルーチンの変化をより詳細に捉えるものとして、近年、多くの組織論研究者に注目されています。現代の職場においても、機械的な装置やITシステムなどの人工物は、業務の遂行に欠かせませんよね。

 

 例えば、Volkoffら(2007)の研究では、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムを導入した企業の事例を分析し、組織ルーチンが技術に埋め込まれている場合、従来の直示的側面と遂行的側面という二面に加えて、「物質的側面」が出現することを示しました。彼女らは、この分析に批判的実在論の立場を採用し、技術が持つ客観的な構造(制約や可能性)と、人間の主体的な行為との相互作用を三層で説明しています。このように、ソシオマテリアリティの視点はルーチン動態論の深化をもたらしています。

 

 さらに、アフォーダンス理論にも触れておきたいと思います。アフォーダンスとは、ある技術や道具がユーザに提供する行為の「可能性」のことです。例えば、最新のITツールは、人々の新たな行動を可能にするかもしれません。Leonardi (2013)は、技術がユーザのどのような行為を可能にし、反対に、制約するかという「アフォーダンスと制約」を分析しました。それによると、組織ルーチンは、人間の意図と技術の物質的な特性が折り重なって形作られていることが明らかになりました。言い換えれば、仕事の現場では、人と技術が一体となって進化(「共進化」)するということです。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)における実践応用

 

 では、このルーチン動態論を、DXの文脈に落とし込んで考えます。DXとは、ICT(情報通信技術)やデジタル技術の導入によって、ビジネスモデルや業務プロセスを変革することとされています。しかし実際には、新しい技術を導入しても、期待された効果が出ないことが少なくありません。

 

 ここで鍵となるのが、「ルーチンの変革」と「技術の活用」の同時管理です。平たく言えば、DXを成功させるには、技術と仕事のやり方の相互作用に注目することが重要ということです。例えば、新しい情報システムを導入して、商品発注などの意思決定を効率化しようとする場合を考えます。情報システムが提供する分析結果という新要素(物質的側面の変化)を受けて、人々は意思決定の進め方(遂行的側面)を調整し、それが繰り返されるうちに組織の意思決定のパターン(直示的側面)も書き換わっていくでしょう。DXの本質は、この反復的な適応プロセスにあります。

 

 新しい技術は、新たなアフォーダンスをもたらし、それまで存在しなかった行動様式を生み出します。その一方で、既存の組織ルーチンとの摩擦や、組織的な権力構造の変化といった組織的な力学も作用して、変革のスピードや方向性が左右されます。すなわち、DX推進とは、たんに新技術を導入するだけでなく、「人々が日々の業務でどうのように新技術を取り入れ、ルーチンを作り変えていくか(再構成するか)」をマネジメントすることなのです。

 

 

組織ルーチンの変革をマネジメントするには


 以上の知見から、経営者やマネジャーが現場の組織ルーチンを変革するための実践的な洞察が得られます。

・現場での小さな工夫を奨励する

 組織ルーチンの変革はトップダウンだけではなく、現場の自発的な工夫によってもたらされます。日々の業務で提案される問題点の指摘や改善のアイデアを歓迎しましょう。そのためには、心理的安全性のある職場環境の整備が不可欠です。

・組織ルーチンの直示的な側面の共有と改善

 仕事の「型」とも言える組織ルーチンのる直示的側面(ルールや標準手順)は、往々にして暗黙的なものになります。したがって、定期的に仕事のやり方を振り返り、メンバー間で話し合うことで共有度を高め、必要に応じて更新しましょう。それによってメンバーが安心して行動を変えられる土壌ができます。

・技術と仕事の適合を図る

 新しい情報システム等を導入する際は、既存の組織ルーチンや組織力学との適合性にも目を配ることが重要です。導入担当者は、業者から新技術の機能について正しい理解を得るだけでなく、現場から上がる「このシステムではかえって手間が増える」といった声にも耳を傾けて設定を見直すなど、すり合わせに注力してください。技術と仕事がミスマッチの状態まま放置すると、現場で働く人々はほぼ確実に非公式な迂回策を生み出します。これが大きな問題につながる前に、必ず対処しておきましょう。

・組織ルーチンの特性に応じたアプローチを使い分ける

 同じ組織や職場の中でも、変化しやすいルーチンと変化しにくいルーチンがあります。Feldman (2000)によれば、ルーチンが変化する可能性は、マネジャーの支援やある種の組織構造の有無だけでは説明できず、それ自体がもつ性質に起因することが示唆されています。したがって、マネジャーは、「この仕事のやり方は変えやすいか」、「ボトルネックは何か」といったことを把握し、仕事ごとにアプローチを使い分けるつもりで臨む必要があります。例えば、細かな改善ができている仕事は現場に任せる一方、固定化した仕事には思い切って人員配置の変更や権限移譲で対処するなどです。

まとめると、仕事や組織ルーチンを固定的で置き換え可能なものと考えるのではなく、それ自体が生きている組織能力として、育てるつもりで取り組むのがちょうど良いのです。

 

組織研究の展望


 ルーチン動態論は、組織研究者にとっても多くの展望と課題を提示しています。第一に、実践的な知見と結びついた議論を活発化させることが求められます。例えば、デジタル時代の新たな技術的人工物(アルゴリズムによる意思決定支援など)や、リモートワークをはじめ新しい働き方により生じるルーチンの変容など、今日的なテーマに取り組むことを通じて、組織ルーチン変革のメカニズムを具体的事例で解明していく必要があります。

 第二に、研究方法論の革新も重要だと考えています。これまでは、定性的なインタビューやフィールドワークが有効でした。しかし、今後は膨大なデータを用いたデジタル・エスノグラフィーなどの新たな手法で、行動パターンの変化を定量的にも捉える試みが期待されます。

 第三に、理論面では、上述のソシオマテリアリティや批判的実在論との融合をさらに進め、権力や制度など組織力学とルーチン変化の関係、組織のパラドックス(安定と変革の両立)などを統合的に説明するモデルの構築も課題です。

 最後に、研究者コミュニティへの提言として、実務家との対話の場を増やすことが挙げられます。しばしば、組織ルーチン研究は理論過多であると言われています(Hatch & Cunliffe, 2006)。ルーチン動態論は、実務にインスピレーションを与えてきましたが、その一方で、研究者が現場からのフィードバックを柔軟に受け入れる姿勢を忘れてはいけないと思います。

 

おわりに

 本連載を通じて、組織ルーチンは惰性的なものではなく、日々の実践を通じて組織を変えうる原動力であることを見てきました。そして、最終回では、そのダイナミズムはデジタル技術を含む物質的要素と不可分であることにも触れました。経営者・マネジャーの皆様には、ぜひ日常の「仕事のやり方」に目を向け、そこに潜む創造的な変化の兆しを捉えて育んでいただきたいと思います。


参考文献


Feldman, M. S. (2000). Organizational routines as a source of continuous change. Organization Science, 11(6), 611–629. https://doi.org/10.1287/orsc.11.6.611.12529
Feldman, M. S., & Pentland, B. T. (2003). Reconceptualizing organizational routines as a source of flexibility and change. Administrative Science Quarterly, 48(1), 94–118. https://doi.org/10.2307/3556620
Hatch, M. J., & Cunliffe, A. L. (2006). Organization theory: Modern, symbolic, and postmodern perspectives (2nd ed.). Oxford University Press. 
Leonardi, P. M. (2013). When does technology use enable network change in organizations? A comparative study of feature use and shared affordances. MIS Quarterly, 37(3), 749–775. https://doi.org/10.25300/MISQ/2013/37.3.04
Orlikowski, W. J., & Scott, S. V. (2008). Sociomateriality: Challenging the separation of technology, work and organization. The Academy of Management Annals, 2(1), 433–474. https://doi.org/10.1080/19416520802211644
Volkoff, O., Strong, D. M., & Elmes, M. B. (2007). Technological embeddedness and organizational change. Organization Science, 18(5), 832–848. https://doi.org/10.1287/orsc.1070.0288