仕事はいかに立ち上がるのか ?

仕事とは、職務として与えられるものではなく、人と人・人とモノ・場所の関係から「職場というエコロジー」で創発する実践である。


このページで考えること

・仕事はなぜ、与えられるだけでは成立しないのか
・人びとはなぜ、ある行為を「自分の仕事」として引き受けるのか
・職場の人間関係や道具、空間は、仕事の成立にどう関わるのか
・新しい仕事が生まれやすい職場とは、どのような職場なのか

「仕事は与えられる」という見方の限界

 従来の組織論は、長いあいだ「仕事は与えられるもの」として語ってきました。管理者が業務内容を設計し、従業員がその通りに遂行すれば、計画通りの成果が出る。20世紀初頭にフレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法以来、この考え方は組織を効率的に動かすための基本図式として機能してきました。

 この見方は、標準化や生産性の向上を考えるうえでは確かに有効です。しかし、現場ではそれだけでは説明できないことが起きています。

 想定外の顧客対応。マニュアルに書かれていない調整。技術導入の後に少しずつ変わっていく働き方。チーム内の細かなやりとり。これらは職務記述書に書かれているわけではありません。それでも、現場の人びとはそれを「自分の仕事」として引き受け、続けていきます。

 なぜ人びとは、誰にも命じられていないことを自分の仕事として行うのか。逆に、なぜ命じられた仕事の一部を、自分の仕事ではないとして行わないのか。これは、仕事の内容や機能についての問いではありません。仕事が、ある種の出来事や実践として現場に立ち上がってくるメカニズムについての問いです。

人と人・人とモノの関係から仕事を見る

 仕事が立ち上がるとき、そこには個人の能力だけでは説明しきれない、また制度の設計だけでも説明しきれない、ある種の関係があります。

 上司と部下。同僚どうし。顧客との接点。机の上の資料。手元の道具。部屋のレイアウト。情報通信技術。身体の動き。これらが互いに影響し合うなかで、「いま、ここで、何をすべきか」が立ち上がってきます。

た とえばオフィスのレイアウト研究では、コピー機とウォーター・クーラーを共有空間に配置することが、職場の非公式なコミュニケーションを誘発することが報告されています。これは、家具や機器という「モノ」が、人びとの行為のあり方を方向づけている例です。同じことが、仕事のあり方そのものについても言えます。

 職場というのは、単なる作業場所ではありません。人とモノが関係し、ある行為が「仕事」として立ち上がってくるエコロジーです。仕事はそのエコロジーの中で生まれ、また、仕事を通じて、エコロジー自体も変化していきます。

代表的な研究事例


サテライトオフィスでの分散協働

 和歌山県白浜町のサテライトオフィスでは、ICTを介して東京や大阪の本社と分散的に働くスタッフたちが、自分たちにしかできない仕事を作り出していきました。

そこで起きていたのは、単なる「リモートワーク」ではありません。Web会議システムというICTのあり方、リゾート地という場所の特性、本社から離れた支社のスタッフという立場、これらが重なる中で、観光大使のように地域の話題を交えながら商談を進める、という新しい業務のスタイルが生まれていったのです。技術が導入されたから新しい仕事が生まれたのではなく、人と技術と場所の関係から、これまでにない実践が立ち上がりました。

住宅営業の同行型OJT

 住宅展示場の営業現場では、新人スタッフが先輩の商談に同席する「同行営業」が広く行われています。これは公式な研修ではなく、業務の合間に行われる非公式な人材育成です。

 ここでも、同行が「仕事」として成立する条件は、教える側の意図だけでは決まりません。展示場という空間、見込み客との対話、契約書類のやり取り、先輩と新人それぞれの役割関係。これらが噛み合った時に、同行は単なる見学ではなく、新人にとっての本物の学習の場になり、先輩にとっても次世代を育てる仕事になります。

組織を変えるとは、何をすることか

 仕事を「現場で立ち上がるもの」として見るなら、組織を変えるという作業の意味も変わってきます。

 新しい職務記述書を作る。研修を実施する。指示系統を整える。これらは確かに必要な作業です。しかし、それだけで現場の仕事が変わることは、実はそう多くありません。

 むしろ重要なのは、仕事が立ち上がる条件としての関係を組み替えることです。誰と誰がどんな関係で働いているか。どんな道具が、どこに、どう置かれているか。空間はどう仕切られているか。役割はどのように重なり合っているか。これらの条件が変わったとき、現場の人びとは、これまでとは違う行為を「自分の仕事」として引き受け始めます。

 組織変革とは、指示を増やすことではありません。仕事が立ち上がる条件を整えることです。

自分の現場を点検してみる

自分の現場をすぐに見直せるよう、いくつかの問いを置いておきます。


・自分のいまの仕事のうち、職務記述書に書かれていないものはどれくらいあるか
・その「書かれていない仕事」を、自分はなぜ引き受けているのか。逆に、書かれているのに引き受けていない仕事はあるか
・新しいスタッフが入ってきた時、その人が自分の仕事を見つけ出せる職場の条件は揃っているか
・道具・空間・役割・関係のうち、いま組み替えるとしたら、どこに最も意味があるか

関連する著作・論文

■ 単著
筈井俊輔(2021)『なぜ特異な仕事は生まれるのか?──批判的実在論からのアプローチ』京都大学学術出版会:第21回日本社会学会奨励賞(著書の部)受賞作。仕事の創発メカニズムを、サテライトオフィス、住宅営業、スポーツ・トレーニングの三つの事例から考察しています。
■ 関連論文
筈井俊輔(2020)「サテライトオフィスにおける情報通信技術を用いた業務実践の創発:批判的実在論の観点から」『日本情報経営学会誌』Vol.39, No.4

 次に読む 

 この研究テーマと関連する別の問いを、二つ紹介します。 

技術導入・DXはなぜ根づかないのか?

道具と仕事の関係を、現代の技術導入の問題として考えるページ。サテライトオフィス研究はここでも参照されています。 

海外拠点の現地化は、なぜ難しいのか?

「仕事が立ち上がる」ことを、海外子会社の現場で考えるとどうなるか。タイ味の素社の事例を分析しています。