継続こそ組織文化変革のカギ:
エンゲージメント向上への地道な取り組み
近年、企業における組織文化を変革し、従業員のエンゲージメントを高めるための、様々な手法が紹介されています。例えば、心理的安全性やウェルビーイング向上などの手法を試す企業も多いでしょう。しかし、こうした目新しいものに飛びつく前に、組織がまず取り組むべきは、基本的なプロセスを愚直に継続することです。
流行に飛びつく前に基本に立ち返る
ここで一つの具体例として、筆者が調査したタイ味の素社の取り組みを紹介しましょう。同社は「iCHANGE」という組織文化の変革プロジェクトを展開し、現地従業員が主体的に働く環境作りに力を入れました。「iCHANGE」は一度限りのイベントではなく、継続的なサーベイ(従業員調査)の実施とその結果のレビュー、改善の取り組みを、プロジェクトの軸としていました。その結果、自らを「ロール・モデル」として主体的に行動する従業員が数多く育ち、従業員間のコミュニケーションが大幅に向上しました(筈井・嵐田、2020)。
「測る・伝える・改善」を回し続ける
このような組織文化の変革の背景にあるのは、「調査→フィードバック→改善策の立案→実施」というサイクルを、企業全体で継続的に回したことにあります。サーベイで明らかになった課題を社内でオープンに共有し、改善案を経営層の支援の下、現場主導で立案・実施することで、社員自身が課題を解決しているという実感を持つことができました。これは従業員のエンゲージメントを高める上で非常に重要なことです。
エンゲージメントが成果を生む
実は、継続的な改善の取り組みがエンゲージメントを向上させることは、多くの研究でも明らかになっています。例えば、Huebner & Zacher (2021)のシステマティック・レビューでは、従業員調査の影響は、適切なフォローアッププロセス(データを用いて具体的な変化を起こすこと)に大きく依存すると結論付けています。また、「ハーバード・ビジネス・レビュー」の記事によると、マネジャーが、従業員の意見を求めながら「聞いたことをどう活用すべきか分からない」からと、行動を起こさなかった場合、それが続くと従業員はフィードバックを止め始める可能性がある(Burris et al., 2024)と述べています。
つまり重要なのは、サーベイ調査そのものではなく、サーベイ調査の実施後にどのように行動するか、ということです。私自身が見聞きした経験からも、多くの企業が調査後に、その結果を十分に活用していないという問題に直面しています。調査結果を放置するのではなく、それを分析し、社内で共有し、具体的な改善策を立案し、実施するという地道なプロセスを続けることが、組織文化の変革や従業員エンゲージメントの持続的向上につながります。
もちろん新しい手法を取り入れることも、組織に新たな刺激を与える上では効果的です。しかし、土台となる基本的な仕組みが機能していなければ、それらの新しい手法の効果は限定的だと感じています。まずはタイ味の素社のように、基本を忠実に、そして愚直に継続することから始めても良いのかもしれません。
参考文献
Burris, E. R., Thomas, B., Sodhi, K., & Klinghoffer, D. (2024, Nov–Dec). Turn employee feedback into action. Harvard Business Review, 102(6), 2–11. (Magazine issue)
Huebner, L.-A., & Zacher, H. (2021). Following up on employee surveys: A conceptual framework and systematic review. Frontiers in Psychology, 12, Article 801073.
筈井俊輔・嵐田高彰(2022)「組織開発としての現地化プロセス:タイ味の素社における『iCHANGE』の事例分析」『金沢学院大学紀要』20号、106-116頁。