組織ルーチンの新潮流③:

安定性・記憶・進化のメカニズム

 

 皆さんの会社にも「お決まりのやり方」や習慣、仕事の型があるのではないでしょうか。それこそが組織を支える大事な仕組み、組織ルーチンです。例えば、毎朝のルーチン(朝礼や安全確認)があるからこそ仕事をスムーズに始められるように、組織にも決まった手順や型があることで業務が安定的に回ります。

 従来、組織ルーチンは、「柔軟性がなく融通が利かない」「思考停止を招く」ものとしてネガティブに語られてきました。しかし、近年の研究では、ルーチンには組織の安定性や記憶、進化を支える重要な力があることが分かってきました。変哲もない習慣が、実は組織の信頼性を支え、知識を蓄え、そしてさらんは、変革の基盤にもなるのです。


組織ルーチンが持つ3つの機能

 

 組織ルーチン論の知見によれば、ルーチンには主に以下の三つの機能があります。 


1.安定性(Stability):組織ルーチンは、組織に信頼性と効率性をもたらします。決められた手順に沿って仕事が行われることで、成果の再現性が高まります(Hannan & Freeman, 1984)。例えば、マクドナルドでは、詳細な手順をマニュアル化し、それらを全店舗で徹底することで、どの店舗でも同じ品質のサービスを提供できています。ルーチンの標準化により、たとえ大規模な組織でもブレやバラつきのない安定的な運営が可能になります。

2.記憶(Memory):組織ルーチンは、組織が知識を蓄える器の役割を果たします。言い換えれば、組織はルーチンを通じて学び、記憶するのです(Nelson & Winter, 1982)。例えば、老舗企業や熟練工が働く職場をイメージしてください。長年の経験によって培われた知識や技術は、ベテラン社員だけが保有するのではなく、新人への指導方法というやり方や、作業手順として組織に蓄積されてゆきます。新人はマニュアルに沿って仕事の基礎を学び、日々の業務の中で熟練技術を身につけます。つまり、明文化された手順書や型といったルーチンが、組織の知識を次世代に継承する媒介となっているのです。

3.進化(Evolution):組織ルーチンは、繰り返しの中で徐々に改良されたり、革新される基盤となります。現場で何度も実行するからこそ、「もっと良いやり方はないか?」という気づきが生まれ、少しずつやり方が改善されるのです。Feldman & Pentland (2003)が提唱したルーチン・ダイナミクス論では、組織ルーチンには二つの側面があるとされています。一つは頭の中にある概念上のパターン、もう一つは、実際に行われる行動です。この計画と実行が互いに影響を与え合うことで、ルーチン自体も少しずつ変化すると説明できます。

改善活動は、組織ルーチンの進化機能を活かす代表例でしょう。例えば、トヨタ自動車では、作業のやり方をマニュアルとして詳細に定めていますが、現場の従業員は、ただそれに従うだけではんく、それを基に、より良い方法を模索し、改善提案を積み重ねています。標準という基盤があるからこそ創意工夫が蓄積され、大きなイノベーションにつながるという考え方です。

人材育成と組織学習を連動させることも可能


理論だけでなく、モデルケースを使って組織ルーチンの力を理解してみましょう。

例えば、ある中堅製造メーカーでは、社内の作業手順を徹底的に見える化するプロジェクトを行いました。熟練工の勘に頼っていた作業を洗い出し、誰もが理解できるマニュアルに落とし込んだのです。その結果、新人育成が効率化し、短期間でも戦力化することができるようになりました(組織ルーチンの②記憶機能)。また、作業ミスも減り、品質のバラつきが減りました(組織ルーチンの①安定性機能)。さらに、この企業の優れていた点は、「マニュアルは常に更新するもの」という考え方を持っていたことでした。例えば、作業書には従業員が自由にメモできる改善提案欄が設けてあり、その声をもとに定期的に手順自体を改訂してゆきました。現場で生まれた工夫が組織ルーチンにどんどん反映されてゆく仕組みを作ったのです(組織ルーチンの③進化機能)。

マニュアル化によって、人材育成と安定稼働、さらには、仕事のやり方自体も現場のアイデアで進化させてゆく。まさに、人材育成と組織学習が連動した状態を作り出したのです。

まとめ

 組織ルーチンは、マンネリや硬直性の象徴ではなく、組織に安定性や、知識、学習をもたらす基盤となるものです。皆さんの職場にもある些細なルールや習慣にも、実はちゃんと意味があり組織を支えているのです。もちろん、組織ルーチンはなかなか変えられない部分もあります。しかし、工夫次第で着実に進化し得るものだという考えで臨みたいものです。自社のルールやプロセスを闇雲に否定するのではなく、上手に活かしつつ変革する。そんな道もあるのです。

 次回、 「組織ルーチンの新潮流④」連載最終回では、安定と変化を内包する組織ルーチンをいかに変革するか、組織変革に焦点を当てて仕事についてさらに理解を深めてゆきます。どうぞお楽しみに。

参考文献


 Feldman, M. S., & Pentland, B. T. (2003). Reconceptualizing organizational routines as a source of flexibility and change. Administrative Science Quarterly, 48(1), 94–118.
Hannan, M. T., & Freeman, J. (1984). Structural inertia and organizational change. American Sociological Review, 49(2), 149–164.
Nelson, R. R., & Winter, S. G. (1982). An evolutionary theory of economic change. Harvard University Press.