組織の「底力」:

業務システムのレジリエンスとは

 

 近年、様々な場面で「レジリエンス(resilience)」という言葉を耳にする機会が増えました。レジリエンスとは、「弾力」や「復元力」を意味し、困難に直面しても適応し乗り越える柔軟な強さを指します。企業経営においては、環境変化や危機的状況に直面しても適応して生き延びる組織の「底力」を示す概念とも言えます。


「レジリエンス」と「強靭さ」との違い


 レジリエンスと強靭さの違いはしばしば議論になるテーマです。強靭さ(ロバストネス)が、壊れずに耐える力を意味するのに対して、レジリエンスは多少の歪みや被害を受けても迅速に回復し元の機能を取り戻す能力を指します。

 ちなみに、近年注目されている反脆弱性(アンチフラジリティ)は、ストレスや混乱にさらされることでシステムが強くなる性質のことをいいます。レジリエンスは「衝撃に耐えて元に戻る力」、反脆弱性は「衝撃を経てさらに成長する力」と言い換えられるかもしれません。

 では、このレジリエンスは具体的に企業の業務システムとどう関係するのでしょうか。組織が高いレジリエンスを持つためには、組織の構造や業務プロセスといったハード面と、組織の風土や文化といったソフト面の双方に注目する必要があります。例えば、サプライチェーンの構造、業務の手順など形式的な面と、社員同士の信頼関係や学習する文化といった暗黙的な要素が互いに支え合うことで、しなやかな対応力が生まれると考えられています。


トヨタ自動車に見る業務システムのレジリエンス


 このようなレジリエンスが生まれるメカニズムを示したのが、トヨタ自動車の危機対応力です。1997年、トヨタ自動車の主要サプライヤーであるアイシン精機の工場で火災が発生し、ブレーキ用部品の供給が途絶える事態が発生しました。これにより、ジャストインタイム方式を採用していた生産ラインは、1か月止まってしまうとさえ予測されました。しかし、トヨタ自動車の生産ラインの停止はわずか3日間で終わり、6日後には通常操業に回復したのです。

トヨタ自動車はこの危機に際し、以下のような措置を講じました。

  1. アイシン精機と合同対策本部を即時、立ち上げ。
  2. アイシン精機の工場内に代替ラインを新設試行。
  3. 取引先各社に緊急代替生産を要請。62社が即座に生産準備に入り、工作機械メーカー約70社を含め合計150社規模で参画。


 私たちはこのトヨタの事例から、多くの示唆を得ることができます。

第一に、レジリエンスは平時に蓄えた潜在能力の発揮によって支えられるということです。実際、ブレーキ用部品とは直接かかわりのない他工場や異業種の企業が持つ潜在的な技術力が動員されたことで解決策が生まれました。

第二に、普段から構築されてきた信頼関係や協力的な組織文化が、有事における迅速な意思疎通と協働を可能にしました。

第三に、レジリエンスは偶然の出来事ではなく、日頃からの備えと学習によって強化できる能力だということです。危機対応を経験したトヨタ自動車は、その後も、在庫戦略の見直しや生産プロセスの冗長性確保など多くの教訓と新たな対策を講じています。このように危機から学んでより強い体制へ進化できるのがレジリエントな組織の特徴です。

 

「柔軟な強さ」を持つ組織を目指して


 グローバル化や技術革新に伴うサプライチェーンの複雑化、感染症の流行など、企業を取り巻く不確実性はますます増大しています。変化への適応力や逆境から回復する力は、企業評価の重要指標にもなりつつあります。高いレジリエンスを持つ企業は投資家やステークホルダーからの信頼も得やすいのです。

 リスク対応に留まらず、逆境を成長の機会へと変える組織づくりのヒントがレジリエンス研究には詰まっています。
 

参考文献

 Nishiguchi, T., & Beaudet, A. (1998). The Toyota Group and the Aisin fire. Sloan Management Review, 40(1), 49–59.