企業倫理は業績につながるか?:
倫理的リーダーシップの効果
ビジネスの現場では、「企業倫理を優先すると業績が犠牲になるのではないか」という声を耳にすることがあります。確かに、利益を追求することと、倫理的な判断を下すことの間でジレンマを感じる場面もあるでしょう。
しかし近年の研究からは、倫理的なリーダーシップが、むしろ従業員のエンゲージメントや生産性を高め、結果的に業績にも好影響をもたらすことが示唆されています。実際、32社を対象とした調査では、経営者が倫理的なリーダーシップを発揮し、倫理的な文化が作られている企業ほど、業績が高いことが明らかになっています(Eisenbeiss et al., 2015)
倫理的リーダーシップが従業員に与える影響
「倫理的リーダーシップ」とは、リーダーが公正さや誠実さといった倫理的な価値観を体現し、日々のコミュニケーションや意思決定、評価を通じて部下にもそうした行動を促すリーダーシップのスタイルのことを指します。
倫理的なリーダーの下では、従業員は信頼感と安心感を感じながら働くことができます。すなわち、部下は上司が自分たちや仕事を大切にしてくれていると感じるため、仕事への意欲や組織へのコミットメントが高まるのです。結果として、業務上の成果も向上し、また不正行為などの問題行動も減少すると考えられています。
実際、倫理的リーダーシップに関する多くの研究が、こうしたポジティブな効果を報告しています。例えば、2016年に発表されたメタ分析(Bedi et al., 2016)では、倫理的リーダーシップを発揮する上司の下では、部下が上司の公正さを感じ、そしてまた、彼ら彼女ら自身の倫理的な行動も増加することが分かりました。
倫理的リーダーシップの具体的メリット
以下では、研究結果によって裏付けられた具体的なメリットを挙げたいと思います。
・従業員エンゲージメントが高まる:倫理的なリーダーの下では、従業員の仕事に対するエンゲージメント(熱意や没頭)が高まります。Den Hartog & Belschak (2012)の研究では、倫理的リーダーシップは従業員のエンゲージメントを高め、その結果、自主的な業務改善や提案活動が増加することが明らかになりました。つまり、上司が模範を示すことで、部下も仕事に前向きに取り組むようになるのです。
・生産性が改善される: 倫理的リーダーシップは従業員一人ひとりの生産性を押し上げる効果も報告されています。例えば、 Bouckenooghe ら (2015)の調査では、上司を倫理的と評価した従業員は、そうでない場合に比べて、上司からの業績評価が高い傾向が確認されました。これは、倫理的な上司のもとでは、従業員の楽観性や自信が高まり、上司との目標のすり合わせもうまくいくためだと考えられています。さらに 、Dust ら (2018)の研究では、倫理的リーダーは、部下の内発的動機を高め、将来、キャリア的に成功する可能性までも高めることが示されました。
・チーム内でポジティブな効果が連鎖する:倫理的なリーダーシップは、個々の従業員の行動にポジティブな効果をもたらすだけでなく、それがチーム全体に波及することも明らかになっています。具体的には、リーダーが倫理的な行動を行動で示し、ロールモデルとなることによって、部下たちも互いに倫理的かつ協力的に振る舞うようになるのです(Den Hartog et al., 2012)。このように、倫理的なリーダーシップは、組織文化となり、良い影響の連鎖を生み出すのです。
まとめ
近年の倫理的リーダーシップに関する研究は、「善いことをしても業績につながらないのでは?」という従来の懸念を払拭し、むしろ、従業員の生産性だけでなく、組織全体のパフォーマンスの向上につながり得ることを示しています。マネジャーにとって、倫理的な言動を実践することは、コンプライアンス上の義務ではなく、優れたチームを育てるための戦略でもあるのです。
参考文献
Bedi, A., Alpaslan, C. M., & Green, S. (2016). A meta-analytic review of ethical leadership outcomes and moderators. Journal of Business Ethics, 139(3), 517–536.
Bouckenooghe, D., Zafar, A., & Raja, U. (2015). How ethical leadership shapes employees’ job performance: The mediating roles of goal congruence and psychological capital. Journal of Business Ethics, 129(2), 251–264.
Den Hartog, D. N., & Belschak, F. D. (2012). Work engagement and Machiavellianism in the ethical leadership process. Journal of Business Ethics, 107(1), 35–47.
Dust, S. B., Resick, C. J., Margolis, J. A., Mawritz, M. B., & Greenbaum, R. L. (2018). Ethical leadership and employee success: Examining the roles of psychological empowerment and emotional exhaustion. The Leadership Quarterly, 29, 570–583.
Eisenbeiss, S. A., van Knippenberg, D., & Fahrbach, C. M. (2015). Doing well by doing good? Analyzing the relationship between CEO ethical leadership and firm performance. Journal of Business Ethics, 128(3), 635–651.